あと一回

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 山根先輩の周りにも、既に人集りができていた。  美保は私の手を握ったまま、人の壁をかき分けて山根先輩に辿り着いた。その強引さにはつくづく感心してしまう。 「山根先輩! 私たちとワルツを踊ってください!」 「あぁ、美保ちゃんと理子ちゃん。いいよ♪ えっと、次の次でいいかな?」 「はいっ!」  化粧でいつもより黒い顔の山根先輩は、快くワルツの申込みを受けてくれた。  大学生の競技ダンスというマイナーな世界。そのため、他大学であっても仲間意識は強く、合同合宿や練習、飲み会などの交流も多い。だから、山根先輩とは何度も話したことがあるし、山根先輩も私たちのことは知っている。  山根先輩は、競技の時は鋭い眼光で少し怖い印象も受けるが、普段はよく笑うしよく喋る、親しみやすい先輩だ。  山根先輩は、二人の一回生と踊った後、約束通り美保と踊り、私のところへとやって来た。  その間も3人からワルツを申し込まれているのが見えた。  (山根先輩、大人気!)  これは早く終わらせないと他の女性部員から睨まれそうだと、苦笑しながら先輩の手に自分の手を重ねた。
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