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山根先輩に礼をして、自分の大学の席に戻ろうとフロアを見渡した時だった。
フロアの中で踊る岩崎先輩の姿が目に入った。相手はOBの優莉先輩。昨年度、岩崎先輩とペアを組んでいた先輩だ。岩崎先輩は優莉先輩ともワルツで優勝を勝ち取りオナーダンスを踊っている。
にこやかに会話をしながらワルツを踊る二人の姿を見て、胸がズキンと痛んだ。
優莉先輩は私の憧れの先輩。音もなく滑るように繰り出される一歩、決して高くない身長からは考えられない大きな歩幅、決して崩れることのない優雅な笑顔。その全てが憧れで、私がいくら努力しても決して追いつけない、雲の上のような人。
(あぁ、やっぱりお似合い……)
優莉先輩は今、ダンスをやっていない。ペアを組む相手がいないからだ。
(岩崎先輩が引退するのを待っていたのよね)
本人たちは言わないが、優莉先輩は岩崎先輩が引退したらペアを組むのだと周囲は噂している。
私は居た堪れない気持ちになり、フロアから出て、少し離れたところからラストワルツの人集りを眺めた。
(こんなにラストワルツが切ないなんて知らなかった……)
楽しそうな声が響いてくる中、自分だけが除け者のような気持ちになり俯いた。
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