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「理子先輩?」
不意に横から声を掛けられ、驚いて顔を上げると、そこには後輩の誠君が立っていた。誠君は私の一学年下で、来年の私のパートナーに決まっている。
「こんなところでどうしたんですか?」
「あ〜、ちょっと疲れちゃって」
誠君が心配そうな顔で覗き込んでくるので、努めて明るい声で返す。顔は上手く笑えていただろうか。
「先輩は踊りっぱなしですからね」
誠君は少し目尻を下げて、控えめに笑った後、ラストワルツの人集りに視線を向け、真剣な顔をした。
(どうしたのだろう?)
不思議に思い彼の顔を見つめていると、彼は視線を人集りに向けたまま、静かに、でも力強く言葉を発した。
「俺、来年、必ず理子先輩とオナーダンス踊ります。最高のラストワルツが迎えられるように一生懸命頑張ります!」
「……あ、ありがとう」
突然の決意表明。彼の目はもう未来を見ているのだ。
あと一回、岩崎先輩と踊りたい……
あと一回、あと一回……
そんな自分が恥ずかしくて、そして誠君に申しわけなくて、俯いて黙ってしまった。誠君は、そんな私に何か言うわけでもなく、ラストワルツが終るまで隣にいてくれた。
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