あと一回

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 会場の片付けが終わり、私たちは帰路に着いた。電車に揺られ、皆、眠りへと落ちている。今朝は朝5時の電車で会場へ向かったのだから、疲れていて当然だ。私の隣に座っている美保も、スースーと静かな寝息をたてて眠っていた。  そんな中、私は眠れずに車窓を流れる景色をずっと見ていた。  ──いや、この1年間の岩崎先輩との思い出を思い返していた。  初めて曲に合わせて踊った時のこと。  (歩幅についていけなくて、岩崎先輩にぶら下がってしまったわね)  指導をお願いしている先生に、私だけ何度も注意を受けたこと。  (岩崎先輩、まだ組んで間もないから仕方ないよってフォローしてくれて)  思うように動けない自分に苛ついて、岩崎先輩に八つ当たりしたこと。  (岩崎先輩、怒らずに、もう一回ゆっくりやってみようって宥めてくれたな)  昼休みも授業の合間も、二人で時間を合わせてたくさん練習したこと。  (それももう、明日からはなくなっちゃうのね)  思い出を辿る度にため息をついた。  岩崎先輩との思い出が増えることはもうないことへの落胆と、あと一回踊りたかったという後悔とが混ざり合ったため息。  (私も誠君みたいに前を向かないと……)  そうは思うものの、ため息が止むことはなかった。
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