73人が本棚に入れています
本棚に追加
5 母の自殺の状況を話すメイド達
レイベン家の場合は、良くも悪くも使用人と家人達の距離が近い。
使用人の中に裁縫の達人が居れば娘達は彼女に教わり、逆にやる気のある使用人に文字や音楽を夫人が教えたりしているくらいだ。
だが分は守っている。
そして陰口が少ない。
全く無いという訳ではないが、それは笑いに紛れてしまう程度のものだ。
これが子爵家だと、陰口も酷いものだ。
普段顔をあまり見せない様にしている使用人達だが、何処に集っているのかは住んでいるうちに知れてくる。
中でも一番俺に刺さったのは、実の母親のことだ。
大概新規で入ってくるメイドは少しするとこの件に首を突っ込んでくる。
「坊ちゃまの実のお母様、自殺されたんでしょう?」
「ええ何でも、入浴中にこう……」
すっ、と首筋を斜めに指を這わせる。
さすがに俺も学校に入る頃にはそれに気付いていた。
養父母は黙っていたが、あの穏やかな雰囲気のひとは自殺したのだ。
それも、おそらくはずっと心を患っていて。
実の父はその治療に相当心身をすり減らしたらしい。
そして時々正気になった実の母は、そんな夫の様子に耐えきれず、メイドがちょっと目を反らした隙に勢いよくそうしてしまったらしい。
切りどころを、医者の妻らしく実によく知っていたらしく、バスタブの湯が見る見るうちに真っ赤に染まり、周囲が慌てているうちに手遅れになったという。
それでは確かに父は憔悴した訳だ。
その後の父の噂も、短く帰省した時にメイド達のさえずりから知っていた。
何故病んだのだろう?
そう疑問に思わない訳がない。
その頃になると、さすがに従姉達も結婚相手探しに夢中で俺のことなど気にも留めない、ということから祖父母のところにもほんの短い間行くことがある。
そして結婚や恋愛の話にかこつけて、実の両親の昔の話をうながすのだが。
どうやら祖母は母を疎んでいたらしい。
俺に対しては優しさも見せるのだが、母は駄目だった様だ。
言葉の端々から「だから成り上がりの娘は……」感がにじみ出ていた。
実の母の実家はネルフィル家というのだが、母自身はその実家と疎遠にしていたらしい。
と言うより、そもそも母は父と共に働く看護人だったのだと。
それは確かに祖父母が許さなかっただろう。
成り上がりの娘、というのもおそらくは後で調べたのだろう。
母方の親戚というものの噂を全く聞かないというのもおかしなものだったのだ。
俺は祖父母にもある程度いい顔をしつつ、医師になる方向であることは話していなかった。
息子の二の舞をやらかす気か、と言われるのが見えていたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!