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アリツィアが子供達に引っ張られていなくなると、アントニアの周りには大人しそうな子供達が残っていた。彼らは興味深々な様子で彼女をじっと見つめていた。アントニアはアリツィアのような活動的な遊びをできる気がしないが、かつてペーターと訪れた様々な孤児院で子供達に本の読み聞かせをしたことを思い出した。
「ねえ、ここには本あるのかな?」
「うん。シスターアントニア、読んでくれる?」
「ええ。何がいい?」
最初にアントニアに読み聞かせをお願いした女の子は、王子様に見初められた平民の女の子のシンデレラストーリーを希望した。
「そんなのつまらないよ! 勇者が竜を倒す冒険がいい!」
「喧嘩しないで。順番に読むわね」
車座になって読み聞かせを始めたアントニアは、ルドヴィカにも絵本を読んであげたことを思い出し、涙が滲みそうになってきた。今どうしているのか、実の母親と姉とはうまくいっているのか、心配は尽きない。でもこのままアントニアが引き取らないほうがいいのだろうか。アントニアには今や実家の後ろ盾も定期的な収入もない。だがアルブレヒトとジルケは結婚してはいなくとも、ルドヴィカの実の両親でアルブレヒトは辺境伯だ。
その時、アントニアの思考を女の子の声が破った。
「ねえ、シスターアントニア、今読んだとこ、さっきも読んだよ」
「あっ?! 本当ね。ごめんなさい」
その後は無事間違えずに朗読することができ、女の子達は満足した様子だった。
女の子向けの本の朗読の後、勇者の冒険談を読み聞かせている途中、アリツィアが戻ってきたが、アントニアは冒険談を最後まで朗読してから孤児院を出た。
アントニアは独居房の区画でアリツィアと別れ、自室に戻った。そこで荷物の整理をしながら、子供達の様子を思い出していた。そうするとどうしてもルドヴィカに想いを馳せてしまう。孤児院の子供達の世話をしたからと言ってルドヴィカの側にいられない罪滅ぼしになるとは思わないが、それでも親のいない子供達の無辜を慰めたいと純粋に思った。翌日、アントニアは孤児院で仕事をさせてもらえないかと院長に頼み、孤児院で本を読み聞かせたり、文字を教えたりすることになった。
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