29.洗濯

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29.洗濯

 修道院に入った翌日の早朝、アントニアはアリツィアに洗濯場まで案内してもらって洗濯の様子を見せてもらった。洗濯する女性達は、突然見学に来て洗濯の仕方を教えて欲しいと言うアントニアに戸惑っている様子だった。 「おはようございます。こちらはシスターアントニアです。洗濯の仕方を教えてあげてもらえますか?」 「お邪魔してすみません。自分では洗濯したことがないのですが、これからは自分の事は自分でしようと思ってるんです」 「はぁ……じゃあ、見てて下さい」  女性達は袖をまくり、洗濯物をたらいにつけて濡らして洗濯板に広げ、石鹸を塗り込んだ。そして洗濯板の上で洗濯物を揉み洗いし、汚れが落ちた所で2度水を変えてすすいで水を絞り、洗い終わった洗濯物を別のたらいに入れた。  一通りの手順を見たアントニアは恐る恐る女性のうちの1人に話しかけた。 「あの、ちょっとやらせていただいてもいいですか?」 「はぁ……そうですか」 「私は礼拝の準備がありますので、先に行きますけど、シスターアントニアをお願いしますね」  アリツィアが洗濯場を去ると、『そうですか』と言った女性は不快そうな表情を隠そうともしなくなった。 「ほんとに洗濯なんてしたことないような綺麗な手してるね。いいとこの奥様だったんだろ?洗濯代なんてケチらないで私達に頼めばいいんだよ」 「娘のためにお金をとっておきたいんです」 「いいとこの奥様にしたら、洗濯代なんてはした金だろ? こちとら生活がかかってるんだよ。奥様の物見遊山に付き合ってる暇はないんだ。もう見たからいいだろ?」  それに対してもう1人の気の強そうな女性が異を唱えた。 「シスターアリツィアによろしくって言われたんだ。やらせてあげればいいじゃないか。ほら、シスターアントニア、洗濯物を水につけて濡らして。そしたら洗濯板に広げて石鹸を塗ってごらん」 「ありがとうございます」 「そうそう。そしたら洗濯板の上で揉み洗いをしてみて」  アントニアは袖をまくって洗濯物をたらいの中の水にそっとつけた。濡れた洗濯物を洗濯板の上に広げると、石鹸を塗って恐る恐る洗濯物を揉み始めた。その様子は洗濯に慣れている女性達には緩慢に見え、特に『生活がかかってる』と言った女性は苛々し始めた。 「あーあ、そんなんじゃ、日が暮れても洗濯が終わらないよ! それにそんな宝物を触るみたいに恐る恐る洗濯してたら、汚れが取れないよ!」  注意を受けてアントニアは力を入れてゴシゴシと洗濯物を擦った。 「ああっ! 力入れすぎだよ! それじゃ洗濯物を破っちゃうよ!」  そんな風に洗濯していたので、もちろんいつもより時間がかかり、アントニアも洗濯をしていた女性達も礼拝の時間に遅れて大目玉を喰らってしまった。アントニアは自分のせいだと女性達を庇ったが、それでも遅刻は許されず、アントニアは女性達の恨みがましい視線を一斉に受けた。  翌朝、アントニアは前日の女性達の様子を思い出して行きづらかったが、勇気を出して自分の洗濯道具持参で洗濯場に行った。でも前日割と親切にしてくれた女性も素っ気なくなり、アントニアに挨拶以外に話しかけてくれる人はいなくなってしまった。
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