30.文通

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 あの地獄のような結婚生活の間も、ゴットフリートとの思い出はアントニアの心の支えだった。彼と結ばれていたらこんな目に合わずに幸せになっていただろうにと彼の父を恨んでしまいそうになることもあった。だから正直言ってその問いは、蟻が群がる砂糖のように甘くアントニアを惹きつけた。  でもゴットフリートは没落貴族とはいえ、子爵家の当主で王宮にも勤めている。彼は30歳も近いが、初婚で弟は次期コーブルク公爵。ひるがえってアントニアは離婚を経験しており、表向きには娘が1人いることになっている。しかも離婚原因は公式には2人目以降を望めないからとされている。娘ルドヴィカの出生の秘密と2人目不妊の偽装は、離婚の際に辺境伯家から支払われた高額な金銭と引き換えに内密にすることを義務付けられている。アントニアは、彼に相応しい女性だと自分でも思えないとレアへの返事にしたためた。  レアは、かつて焼きもちを焼いてアントニアに意地悪を言ったことを気にして罪滅ぼしにゴットフリートとの復縁の橋渡しをしようとしているのだろう。でもアントニアは、レアにそんな事をしてもらうよりは純粋に文通友達になってほしいと願った。  アントニアは、ルドヴィカにも定期的に手紙を出した。手紙がアルブレヒトとジルケに取り上げられるのは覚悟の上だ。やはりルドヴィカにアントニアからの手紙が渡っていないのか、返事は全く来なかった。  手紙には平易な言葉を使うようにしていたが、ルドヴィカは自分だけではまだ全部読めないだろうし、返事も書けないだろう。それにアルブレヒトとジルケがアントニアの手紙をわざわざ読み聞かせるはずがない。でもアントニアには、アルブレヒトからアントニアの手紙を入手してルドヴィカに読んであげることができるような権力を持つ人間と繋がりもない。唯一取り持ってくれそうなペーターには、プロポーズを断った手前、頼りづらかった。  そうしてルドヴィカからの返事がないまま、毎日あっという間に時が過ぎていって離婚から1年が経った。
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