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その日の会合もまた同じような展開で終わりそうでレアは徒労感を抑えきれなかった。また義父や夫の意見を問われた時に、レアが代行として出席している以上、彼女の言葉が家の意見だとラルフが庇ってくれてそれだけが唯一の救いだった。
会合が終わると、それぞれ親しい仲の者同士しばらく話をしてから帰宅の途につくが、レアはラルフ以外と話す相手がなく、前回は別れの挨拶をしてすぐに帰宅した。だが、この日はラルフに頼みたいことがあり、気もそぞろですぐに帰りそうなラルフに話しかけた。
「ラルフ、息子さんの様子はどう? かわいい盛りでしょう?」
「ああ、ありがとう。本当にかわいいよ」
結婚から月足らずで生まれたラルフの息子ミハエルが亡きルドルフの忘れ形見かもしれないとか、反対にラルフが結婚前に妻ゾフィーに手を出したのかもしれないとか、レアは両方の噂を聞いたことがある。でも真面目なラルフが結婚前にゾフィーと関係を持ったとは思えない。かと言って貞節が重要視される貴族令嬢のゾフィーが、侍女と心中した生前のルドルフと子供の出来るような事をしていたとも思えない。でもレアにとってそれは重要ではないし、元婚約者で今は友人のラルフを傷つける気はないので、噂を知っているというのをおくびにも出すつもりはない。
「ちょっと相談があるの。この後、時間ある?」
「ここじゃ話せない?」
ラルフは、まだ会場に残っている会合参加者の好奇心に満ちた視線を感じて居心地が悪く、場所を変えての元婚約者との内緒話に少し罪悪感を覚えた。
「ええ。ちょっとアントニアのことで。話が長くなりそうだし、彼女のプライベートなことだから」
レアが声をひそめてラルフにそう伝えると、ラルフは納得し、近くのカフェへ移動することにした。
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