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34.元婚約者の弟からの手紙
アントニアがレアに再婚のつもりはないと返事を書いてから数週間後のある日、アントニアは、礼拝の後に突然院長に話しかけられ、院長室へ来るように言われた。
「シスターアントニア。貴女にラルフ・フォン・コーブルクという方から手紙が来ています。規則上、お渡しできませんから、開封せずに返送しますけど、それだけお伝えしておきます」
「ご親切にありがとうございます」
院長は、洗濯女達との行き違いから孤立したアントニアを気の毒に思い、本来は名宛人に教えずに返送する手紙のことをアントニアに伝えた。聖グィネヴィア修道院は家族・親族以外の男性からの手紙は受け付けない。そのために修道院に入る前に身上調査がある。
独居房に戻ったアントニアは、ラルフからなぜ手紙が来たか考え、レアの手紙に思い当たった。彼女は未だに子供の頃の焼きもちからの意地悪に罪悪感を持ち、ゴットフリートとの復縁を橋渡ししようとしてラルフに協力を頼んだのだろう。アントニアはありがたく思う一方で、結婚歴のある自分では初婚で子爵家当主のゴットフリートに相応しくないと思い、胸が痛くなった。
それから1週間ほど経ったある日、コーブルク公爵家では、未開封のままでアントニア宛の手紙が戻って来てラルフは困惑していた。公爵家の執事コンスタンティンに言われるまで、聖グィネヴィア修道院が親族以外の男性からの手紙を受け付けないことを知らなかったからだ。ラルフは妻ゾフィーにアントニア宛に手紙を書いてもらい、その封筒に自分の手紙を同封することにした。
その翌週、アントニアはゾフィー・フォン・コーブルクと名乗る女性からの手紙を受け取った。アントニアはラルフの妻の名前を知らなかったが、苗字でそうだろうと推測できた。
封筒を開くと、ゾフィーからの手紙の他にラルフからの手紙も入っていた。ゾフィーの手紙は自己紹介とコーブルク公爵家の日常を書いた短いもので、ラルフからの手紙にはほとんどゴットフリートのことしか書かれていなかった。
ゴットフリートは王宮で官吏として働いており、当主としても頑張っていてノスティツ子爵家を立て直そうとしている。もし彼のことを嫌いでなければ、もう一度縁を結ぶ手伝いをさせてほしい。ゴットフリートが初婚なのは気にしなくていい――そんなことがラルフの手紙には書かれていた。
でもラルフの手紙も、離婚歴のある自分はゴットフリートに相応しくないというアントニアの頑なな気持ちを覆せなかった。ゴットフリートがアントニアと本当に結婚したいと思っているかどうかもアントニアは自信がない。アントニアは、その気持ちをラルフ宛の手紙に正直にしたため、ゾフィーへの返事に同封した。
1週間後、アントニアの手紙はコーブルク公爵家に届いた。ラルフはその返事を読んでため息をついた。
「はぁ……頑なだなぁ……兄上もそうだけど……これは俺がもうちょっと一肌脱ぐしかないな」
ラルフは兄とアントニアのためにもうちょっとお節介を焼こうと決心した。
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