35.強情なゴットフリート

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 ラルフとゾフィーが出発後、後に残されたのはコーブルク公爵家の無紋の馬車と御者だった。窓から見える馬車をチラチラと見つつ、ゴットフリートは落ち着きなく自室兼執務室の中を右往左往した。  ラルフとゾフィーが出発して数時間後、日が傾き始めて公爵家の馬車に赤い夕陽が当たり、ゴットフリートの部屋も薄暗くなってきた。夕陽が薄っすらと入る自室で相変わらずウロウロしていたゴットフリートは、突然響いたノックの音に驚いて飛び上がった。 「旦那様、コーブルク公爵家の御者から小公爵様の手紙を預かりました」 「ラルフから?!」  ゴットフリートは、ノスティツ子爵家に唯一いる侍女にラルフからの手紙が届けられたと伝えられ、あっけにとられた。封筒を開けると、ラルフからは一言『これを読んでみて』とだけメモが入っており、アントニアからラルフへの返信が同封されていた。  その手紙にアントニアは、離婚経験のある自分がゴットフリートに相応しいと思えないと書いていた。でも『そうじゃなかったら本当はゴットフリートと結ばれたかった』と行間に書かれているようにしかラルフは思えなかった。彼は自分の勘を信じ、もしあまりにゴットフリートが修道院行きを躊躇しているようだったらその手紙をゴットフリートに渡すようにと御者にあらかじめ言い含めてあった。  ゴットフリートが久しぶりに見るアントニアの自筆は、婚約時代と同じように几帳面な性格がうかがえる、美しい字だった。ゴットフリートが寄宿学校にいる間、彼女はその綺麗な字でよく手紙を送ってくれたものだった。ゴットフリートはいつの間にか頬を濡らし、その雫が手紙に落ちて字が滲み、慌てて指で涙を拭った。  ゴットフリートは涙でかすむ目でじっとアントニアの手紙をしばらく見ていたが、いきなり何か決意したかのように顔を上げ、頬の涙を袖でぐいっと拭った。急いで一張羅に着替えて髪の毛を整えると、家を飛び出した。後ろで母カタリナが何か喚いていたが、振り向きもしなかった。コーブルク公爵家の御者は阿吽の呼吸でゴットフリートを馬車に乗せてすぐに出発した。
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