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いつかサクマにもその時が訪れる迄の間、何度も何度もクロギのその言葉を、紡いだ美しい世界を思い返して、サクマの世界が自然に言葉を失う時を出来るだけ正しく待った。
そして、『今日はイワナが大漁だった』とか『そろそろヤマモモの実がなる頃だよ』などと、樗の木に向けてサクマの物語を語るようになった。
それから幾星霜、漸くその時が来て、樗の木の下でサクマは静かに目を瞑る。
遥か天空に見えた美しい純白の城壁から、クロギがサクマに手を振るのが見え、それがみるみる大きくなって行く。
やがてサクマの身体は、その両の手に優しく抱かれた。
「サクマの物語はとても面白かったよ。ずっと聞いていたんだ」
「なに、クロギの物語ほどじゃない。これからもっと、クロギの物語を聞きたい」
─ サクマとクロギの天国 ─
それは、クロギの美しい言葉によって創り出された、サクマとクロギと、木と草と獣と、物語と、真に純なるもののみが棲む事を許される、美しい世界だった。
【サクマ及びクロギのこと ─ 完 ─ 】
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