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サクマが十と八つになったであろう年に、里からクロギなる者が訪ねてきた。
言葉を解さないサクマは、クロギに恐れ慄き、自然と仕草は乱暴になった。
そんなサクマの事を、サクマよりも四つか五つほどは年上であるらしいクロギは落ち着き払って見つめていた。
クロギもまた、サクマ同様一人であったので、サクマ程ではないにしろ、同様の感覚的鋭さを備えていた。
クロギは夜の闇や、朝の露や、野に茂る雑草と話すのと同じようなやり方で、サクマに優しく言葉ならぬ言葉で語りかける。
やがてサクマは落ち着きを取り戻し、少しずつではあったが、クロギの事を信用できるようになっていった。
サクマはクロギがどうしてここに来たのか、そんな事には興味がなかった。
クロギに邪な心根があったのなら、そうは思わなかったかもしれないが、クロギにそのようなものはない。
サクマがクロギの事を信用するには、それだけで十分だったのだ。
クロギはまず、サクマに言葉を教える事にした。
サクマは賢明なる者である。
瞬く間に二万と七千の言葉を覚えた。
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