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「天国には誰でも行けるのか? 」
また不安気なサクマがクロギを覗き込む。
「勿論」
「草も木も、獣もか? 」
「だってサクマとクロギしか居なかったら、天国に言葉は『サクマ』と『クロギ』の二つしか必要なくなってしまうだろ? 」
そう言って笑うクロギを見て、サクマは漸くこの世界がサクマとクロギの二人だけの世界でなかったという事をちゃんと理解した。
一人ぼっちで山小屋に居た時も、決して一人だけの世界ではなかったという事実を認識した。
また時を経て、クロギが言ったように、遂にサクマの周りから再び言葉が消えた。
はじめサクマは、これでもかと言う程にオイオイと泣いて過ごした。
今迄に『泣く』と言う事などなかったから、サクマ本人も涙が出る事に大変驚いた。
もしかしたら、クロギがサクマに『男』とか『女』という言葉や概念を教えていたら、サクマは泣く事すらできなかったかもしれない。
クロギが言葉を失って二十と四日が過ぎた頃、サクマは漸くクロギの言葉を思い返す事ができ、クロギを樗の木の下に埋めた。
そして、毎日毎日、クロギの物語を思い返して過ごした。
意味を持つ音を失くした世界は、それに長年親しんだ今のサクマにとって辛いものであったし、実際サクマは、自らもクロギと同様に言葉のない存在になってしまおうと考える事もあった。
─ だけど、悪い事をしてはいけないんだよ。悪い事をしたら天国には行けないよ。クロギには二度と会えない。
地獄は何もない世界。草も木も、獣も、色も音も、勿論、言葉もない世界。物語のない世界でずっと、一人ぼっちになる ─
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