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「もう、美樹! あまり飲みすぎちゃダメよ! 二日酔いの花嫁なんてみっともないったらありゃしないんだから」
「はぁい」
母親の小言に返事はするものの、言われたそばから美樹と呼ばれた女性はクイッと赤ワインを口に流し込む。
青いTシャツにパイル生地の白い短パンと寛いだ格好でダイニングテーブルの椅子に座っていた美樹は、目の前の一口大にカットしたステーキをフォークで刺して、口に運んだ。
「うん、美味し! やっぱり、赤ワインは肉料理に合うね!」
ほろ酔い気分で上機嫌にワイングラスを右手に持つ。美樹の真っ白い肌は心なしか薄紅色に染まっていた。
「美樹! 飲みすぎない!」
「これくらいで酔わないよー」
「まぁまぁ、美樹だってもう子供じゃないんだし」
父親が笑いながら美樹の味方をすると、「お父さんは美樹に甘すぎよ」と母親は不服そうな口調で言い、ステーキをナイフとフォークで切り分ける。
美樹の結婚式を明日に控え、一之原家の食卓にはご馳走がテーブルいっぱいに並んでいた。
コーンスープから始まり、アボカドディップ添えのグリーンサラダ。ミディアムレアに焼かれたサーロインステーキの横にはフライドポテトに人参のグラッセ。朝からホームベーカリーで焼いたバゲットはほんのり温かく、それらのご馳走に負けてない29年物の赤ワイン。
「この赤ワイン、美味しいよ。お父さん!」
「そりゃ、そうだろ。美樹が生まれた年のワインをお父さんが厳選したんだ」
ワイン好きの父親は得意満面で自慢をした後、ポツリと呟く。
「ああ……やっぱり寂しいもんだなぁ。生まれた時はあんなに小さかったのに……」
感傷的な気分を誤魔化すように父親はワインをグッと飲み干し、それを横目で見ていた美樹は父親のグラスにワインを注いだ。
「そんなしんみりしないでよ。遠くに行くわけじゃないんだし!」
「そうよ。この子達の新居は隣の市なんだから。そうだ、美樹。言おう言おうと思ってて忘れてたわ。リビングに置いてあるフランス人形、壊れてるんでしょ? 捨てたら? あなたも新居に持っていかないって言うし」
母親は新居という単語からふと思い出したように、リビングの方へ目を向ける。
「ああ……うん……」
さっきまで朗らかだった美樹だったが、母親の提案に明らかに歯切れの悪い声を出した。
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