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たしかにお母さんが言った通り、ボロボロだな。
美樹は棚に置いてあった金髪の青い目をしたフランス人形に手を伸ばす。
ここ何年かは忙しくて、あまりこの人形を気に掛けてなかった。それでも埃を被ってないのは、なんだかんだ言いながらも母親が綺麗にしてくれていたのだろう。
美樹はクスリと笑った。
フラちゃんには、いっぱい歌ってもらったな。オルゴールが壊れちゃって……ほったらかしててごめんね。
壊れた時に直そうかと見積もりを取ったのだが、海外の古い人形の為か修理費が驚くほど高くて断念してしまった。
でも……
美樹はふと思う。
あの曲、好きだったんだよね。なんて曲だか未だにわからないけど。子供心に聞いたことない外国の曲に興奮してさ。なんかね、綺麗でキラキラしてたんだよね。
子供の頃、フランス人形相手に話しかけていた事を思い出し、クスクス笑った。
最後にあと一回……聴きたかったかな。
無駄だとわかっていても人形のオルゴールの巻きネジを回してみる。音は何一つ鳴りはしない。
だよねー。
美樹はふぁぁと欠伸をし、もう少し寝ようとフランス人形を元の場所に戻した。
フラちゃん……今までありがとね。
フランス人形の頭を撫で、リビングの電気を消す。
寝不足の花嫁こそ良くないよね。
部屋に戻ろうとリビングを出た途端、美樹を引き止めるかの様にポロン……と音が聞こえた。
美樹はビクリと肩を震わせ、立ち止まる。
あれ? 今…………鳴った?
おそるおそるリビングに戻り、人形を抱き上げた。
気のせい……かな。
美樹が人形をまじまじ見つめていると、フランス人形は昔のように曲を奏で始めた。
うそ!?
美樹は人形を裏返したり、下から見たりと、なんで?なんで?と呟きながら、人形のすみずみを何度も確認する。
その間もオルゴールは流れ続けた。
ポロ……ン……と大好きだった曲の最後の一音が鳴り、しんと静寂に包まれた。
人形の巻きネジを再び回してみたが、もう人形はうんともすんとも言わない。
美樹は手の中のフランス人形をただただ見続けていた。
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