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朝。
昨夜のバゲットの残りをトースターで温め、コーヒーを淹れる美樹。母親は今日の予定を確認しながら、忙しなく動き回っている。
「ごちそうさまでした」
朝食を食べ終わり、美樹は立ち上がった。リビングに入り、フランス人形の前で立ち止まる。
あと一回、聴きたいという願いを叶えてくれたの……?
「……はい……はい……はい。わかりました。迎えに行くので、そちらでお待ち下さい。それでは……。美樹ーー! 早く準備しなさい。和彦さん迎えに来てくれるんでしょう? ああ! もう! 西島のおじさん、もう着いたんだって。相変わらず、せっかちなんだから!」
母親は参列予定の親戚から掛かってきた電話を切り、忙しさのあまり少し苛つきながら美樹に声を掛けた。
「ほら、急いで。お母さんもおじさん迎えに行かなきゃ」
「う、うん。ねぇ、お母さん、このフランス人形、私、新居に持っていく。だから、人形供養しないでくれる?」
母親は不思議そうな顔をする。
「あら。昨日は供養するって……」
「うん。でも、やめた。私、お嫁に持っていくわ」
「ふぅん、まぁ、好きになさい。さ、さ、早く準備して。お母さん達も出るから。お父さーん、西島のおじさん着いたんだってー」
母親は父親を呼びに行き、リビングには美樹だけが残った。
「さ、私も準備しますか!」
手を天井に向けて思いっきり伸ばす。ピンと背筋を正し、気合を入れると美樹はフランス人形に笑い掛けた。
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