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3 鰈の煮付けと山盛りご飯
はぅ。
ランチも一段落した14時頃。
飯処みかさの店主、みのりは何度目かのため息をついた。
そこへカラカラと扉が開いて、たまちゃんと歩夢がやって来た。
二人はいつのまにか、仲良くなったようだ。
揃ってお昼過ぎにやって来る。
「みのりさーん、こんにちは」
「いらっしゃい」
「あれ? みのりさんなんか……元気ないみたいな……」
心配そうにたまちゃんが、みのりの顔をじっと見る。
「どうしたの? みのりさん」
歩夢も心配そうに声をかけた。
うぅーん、とみのりが唸る。
「今度ね、商店街で大食い企画をやるんですって。その山盛り料理をウチで作ってくれないか、って」
「ええ! いいじゃないですか! みのりさんの料理は美味しいし! いくらでも食べられますよ!」
再び唸るみのり。
「料理の支度金は貰えるし、ご飯が美味しいって分かれば、お客も増えるかな、って思うんだけどね……」
美味しい話しのハズなのに、なぜか沈んでいるみのりに、首を傾げるたまちゃんと歩夢。二人は、そっと目配せしている。
「えっと……。みのりさん、俺たち何が問題なのか分からないんだけど……」
おずおず声をかける歩夢に、みのりが泣きつく。
「何を出せば良いのか分からないのよう。寿司屋なら寿司。蕎麦屋なら蕎麦。カレー店ならカレー。天ぷら店なら天丼……けど、ウチって何? 何屋なの?」
「飯屋」
間髪を入れずに答える二人。声も揃ってる。
そんな二人を恨めしそうに見やったみのりが言う。
「なによ、たまちゃんと歩夢くん。カップルだからって揃って答えちゃって……」
「俺たち、カップルって訳じゃ……」
「付き合ってませんっ」
あたふたと答える二人を眺めて、みのりが笑った。
「ごめんね、二人に八つ当たりしちゃった。今日の学生ランチは煮魚。お詫びに子持ち鰈にしとくね。今、用意するから」
言葉どおり、ホカホカの鰈の煮付けと山盛りのご飯があっという間に二人の前に運ばれる。
鰈の白身に甘辛い煮汁がよく滲みている。
ほろっとした鰈の身は骨離れもよく、食べやすい。
二人は鰈を口にした後、すぐさま白米を口にする。
「みのりさんのお料理ってホント、白ご飯が進むんですよ! それがこの店の味なんじゃないですか?
どのおかずだってみのりさんが作るだけで、この店の味なんですよ!」
隣でたまちゃんが頷いている。
そして二人は、空になった茶碗をみのりに差し出した。
「山盛りご飯、おかわりお願いしますっ」
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