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6 手作りコロッケと山盛りご飯
「じゃあ、みんな。グラス持った〜!?」
飯処みかさに元気な声が響く。
「たまちゃん、大食い選手権、優勝、おめでとーうっ!かんぱーいっ」
大食い企画が終わり、選手たちとみのりは飯処みかさに集まってグラスを掲げた。
普段、酒類は提供しないけれど今日ばかりは特別提供。
未成年者のたまちゃんと歩夢には、烏龍茶。
優勝者は、得も言われぬ顔で美味しそうに食べ進めたたまちゃん。
たまちゃんは山盛りご飯を5回おかわりして優勝した。
6回おかわりした歩夢はちょっぴり悔しそうに言う。
「食べた量より、美味しい顔で審査って言われたら敵わないよー。たまちゃんはそりゃあ美味しそうに食べるもん」
たまちゃんのリクエストで、厨房で手作りコロッケを揚げながらみのりが心配した。
「たまちゃん、優勝者は地域新聞の写真に載っちゃうし、今日スマホで動画を撮っていた人がいたけれど大丈夫?」
「大丈夫です! 食べたいと思っていたご飯を無理することなく食べたいだけ食べられたので、私は、幸せです。この間、大学でも声を掛けられたんですよ。私が食べているところを見ると元気が出る、って。だから、私、見られることを気にしないことにしたんです」
みのりは揚がったコロッケを運び、それぞれの前に置くと、たまちゃんを抱きしめた。
「嬉しかったよ、たまちゃん。野次から庇ってくれてありがとうね。定食屋を、いえ、私のご飯を大事に思ってくれていることが伝わった。私自身が定食屋を低く見ていたみたい。ホント、反省するわ。これからは、胸を張って美味しいご飯を作るからね」
鼻を少し赤くしたたまちゃんもみのりを抱きしめ返す。
「みのりさんのご飯は、私が変わるきっかけを作ってくれたご飯だから……」
しんみりしそうなみのりとたまちゃんに、他の選手たちが楽しげに声を掛ける。
「泣くのは後々! せっかくの揚げたてコロッケが冷めちまうぞ」
そう言ってホフホフと出来立てコロッケを頬張る。
そしてビールで流し込み、笑った。
「旨いっ」
それを見た、たまちゃんと歩夢が声を揃えた。
「みのりさんっ、山盛りご飯、くださいっ!」
一斉に驚きの声が上がる。
「ぇえええええーーーー!!!! あんだけご飯食べたのに、まだ食べるの?」
嬉しそうに笑顔を浮かべて二人が答える。
「美味しいおかずのお供には、白米です。皆さんにとってのビールと同じです!」
「白米は別腹、別腹!」
「おかしいから! 無限胃袋かよっ!」
二人に向かって店にいた全員が、言い返した。
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