こどものくに

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 夏が終わる。台風が連れて来た雲。鉛色に遮られたその向こうに遮断された陽光が縁取る様に白く、そこから一筋漏れ出して真っ直ぐに差している。濃淡様々な鉛色が、薄くて軽そうで白いもの程頻りに動いている。その向こうにはすっかり空を覆い尽くした雨雲。いつもの夏燕も鳶も見あたらない。風が吹いているのだろう。僕はあんな高くを忙しく飛びまわる燕やもっと高くに浮かんで弧を描く鳶にここからは見えない虫の存在を想像するんだけど、果たして虫たちはあんな高くまで飛べるのだろうか?それはわからない。そのもっと高くを飛ぶ飛行機も今日は見あたらない。風でも雨でも陽射しでも、強いものは世界を止める。いや、それらそのものが世界なんだろうか?そんな事誰も考えもしないで地べたから何十センチも自力で離れられない僕らは違う世界を生きる。嘘に、錯覚にわざわざ身を投げ込んで、息継ぎしながら水面を泳ぎ、或いはただただ仰向けに浮かぶ。偽物。うそんこの世界。そこでは金や地位が空を飛ぶ代わりになる。信じるものだけに報いて淘汰を重ね、高純度な揺るぎない社会。やっと辿り着いた。  僕らはみんな、世界を忘れて社会を生きる。  夏休みの自由研究。僕のは「大人になると云う事」について。18歳の夏。名ばかりの成人。その夏休みのまた休みみたいな台風。おかげで理解が及びそうだ。どうやら社会に於ける「大人」とは、生物としての成熟から目を逸らす事みたいだ。
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