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――白垣流奥義、詩仙繚乱斬!
剣を鋭く回転させ、天に向かって斬り上げる。豪快な剣圧が風刃の竜巻を起こし、忍らを容赦なく切り裂いた。飛び散る血しぶきは舞う花弁のようで、舞い上がる風に乗って月夜の空に華やかに咲き誇った。
「なぬうっ!?」
燦爛な剣術で散る血は一瞬、尼音の視界を奪い取った。刹那の隙を寧々子は見逃さなかった。
――森末流秘儀、山吹の天露返し!
寧々子は小刀を持つ尼音の手を取り押さえ、肘をみぞおちに突き立てる。腰が折れたところで間髪入れず手刀を喉に突き込んだ。さらに力の抜けた腕を掴んで背中に回してねじり上げ、足をかけて地面に押し倒す。こぼれ落ちた小刀を蹴り飛ばした。
勝負は瞬く間に決した。竜規は打刀の切っ先を尼音の襟に当て、帷子を引き裂いた。背中には赤羅門の家紋の焼き印があった。
「忍ならばこの場で自害するのもよかろう。だが、赤羅門の仕業と分かった以上、おぬしの亡骸をもって徳川に通告し、藩を潰してもらうこととする」
幕府に忠義を尽くしてきた白垣が願えば、徳川も黙っていないだろう。
「ならば潰される前に潰してくれるわ! 赤羅門の兵力を集結させてな!」
けれど、寧々子も黙っているはずがない。
「範士の娘であるわたくしに手を出した以上、森末流の門下生、三千人を敵に回すことになります。戦になれば容赦はいたしません」
気迫のこもった声色に尼音は震えあがった。
「だが、二度と白垣の地に手を出さないのであれば見逃してやる。そう藩主に伝えるがよい」
竜規が目で合図をすると寧々子は尼音から離れて身を引いた。血しぶきを浴びた尼音は、死に損ないの鼠のような姿でひょこひょこと森の奥へと逃げていった。
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