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ようやっとふたりは緊張を緩め、互いに顔を見合わせる。
「寧々子よ、おぬしの唐手はなかなか見事ではないか」
「竜規様こそ壮麗な剣術でございました。これで呪いは消え去りましたね」
「確かに。だが、そうなればおぬしはもはや用無しだ」
「あら、なぜでございましょうか?」
不思議そうな顔をする寧々子。
「おぬしは余の側室など望んでおらんであろう? ならば御殿に縛られる理由などもうなかろう」
それは御殿という鳥籠から抜け、自由に広き世空を翔べという、竜規の粋な計らいにほかならない。
「竜規様は世継ぎがほしいのではございませんか?」
「いや、余はそれ以上にほしいと思っていたものを、図らずとも手に入れたようなのだ」
意味ありげな言い回しに、寧々子は眉根を寄せて首を傾げた。
「それはなんでございましょう?」
「それは――友という存在だ」
竜規にとって、寧々子は側室などではなく、まさに戦友と呼ぶべき間柄であった。寧々子は一瞬、驚いたが、すぐさま柔和な笑顔に戻ってうやうやしく答える。
「それは恐れ多きことでございます」
「そう思われるのは嫌か?」
「いえ、嬉しくて――初夜よりもお恥ずかしゅうございます」
竜規は日本人形のような寧々子の姿を思い出す。
「あの時、おぬしは恥じらっておったのか?」
「当然でございましょう、これでも女ですから」
そう言って月光の下で肩をすくめる寧々子は可愛らしく、竜規は今になって勿体ないと後ろ髪を引かれる気分だった。けれど、寧々子を手放す決心を微塵も後悔していない。
「では友の証として、おぬしが祝言を挙げる折には、たんと見舞いを持って馳せ参じよう」
「結構でございます。かつての主が祝いの場に現れるなど、まさに修羅場ではありませんか」
「はっはっは、それはそうでござるな」
竜規は天を仰ぎ、晴れ晴れとした顔で笑った。
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