27人が本棚に入れています
本棚に追加
家臣たちは藩の領地内を駆け巡り、丈夫で健全な女性を探し回った。
そして、ついに新たな奥方が選び抜かれた。側用人である佐一は竜規に願い出た。
「竜規様、どうかもう一度だけ、側室を迎えていただけませんか」
竜規は佐一の審美眼には一目置いている。しかし、唐突にそう言われても乗り気にはなれない。
とはいえ、藩の存続を思う家臣の努力を無下にするわけにもいかない。お気に召さなければ断ればよいでしょうと諭され、しぶしぶ首を縦に振った。
そして初会の日が訪れた。
竜規の目前でかしこまる娘は礼儀正しく、気品を備えているように見えた。
「竜規様、このたびはわたくしのような身分の者を御殿へお招きいただき、誠にありがとうございます。わたくしは寧々子と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」
佐一は満足げに寧々子の身の上を明かす。
「支那の国から伝わった唐手を教える道場に、範士の森末という者がおりました。寧々子はその者の娘ですが、幼少時より鍛えられていたようで、逞しさも胆力も、そんじょそこらの娘とは比べ物になりません」
しかし、寧々子という女子は、この御殿という鳥籠で生きるには、あまりにもあどけなく、無知なように思えた。竜規は、厳格な作法や稽古事を叩き込まれ、すぐに音を上げるのではないかと懸念した。
けれど、それだけではない。今まで竜規が娶った娘たちは皆、初見の際に胸を躍らせているのがありありと伝わってきた。ところが、寧々子は平然としていて、心を乱す様子がまったくないのだ。
自身に興味を抱かない女など、奥方として迎える理由はひとつもない。すぐさまこの場から立ち去って欲しいとさえ思った。
最初のコメントを投稿しよう!