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刹那、側室のひとりであるみやがわっと泣き出した。
「ああ、どうかやこに会わせておくれ! たとえ抱きしめられずとも、もう一度言葉を交わしたいのじゃ!」
その願いは皆、同じであった。しかし、不安定に揺れた空気を律したのは弥生であった。
「お待ちなさい。それこそが呪いの権化かもしれません。憎き悪霊が、寧々子に憑いて子の幻影を見せているのかもしれません」
けれど寧々子に動揺はない。淡々と言い返す。
「いえ、そうではなさそうでございます」
「何故にそう言えるのか?」
「正彦様が、自分はある者に殺されたのだ、ほかの子らもそうなのだと語ったからです」
「なんですと!?」
皆は飛び上がるほど驚いた。たしかに最初に亡くなったのは弥生の息子、正彦であった。寧々子の言うことが正しいのであれば――。
弥生は息を荒くして寧々子に問いただす。
「寧々子、ならばそなたは子らを殺めた咎人が誰なのか、知っておるのか?」
しかし寧々子は困った様子で首を横に振る。
「今はわかりません。けれど明日の夜、その咎人が誰なのか知ることができるでしょう」
場がざわつくのも意に介せず、寧々子は続ける。
「正彦様が言ったのです。月が満ちる夜、子の刻に北山の祠で待っていると。そこで、自分を殺した者の名を教えるのだと」
「まことであるか!?」
「はい。ですから満月となる明日の夜、わたくしは祠を訪れてみるつもりです」
寧々子は立ち上がり、唖然とする奥方たちを残して御書院を後にした。
そして翌日、寧々子は夜の帳が落ちた山道をひとりで登り始めたのであった。
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