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悪霊との決戦
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寧々子が最中の月が描きだす森の夜道を登り始める。半刻ほど進んでいくと、ついに石造りの祠へと辿り着いた。祠の前に立ち尽くし気を張り巡らせる。
もしも竜規の言うとおり、子らが殺されていたのだとしたら、咎人は寧々子が子らと言葉を交わせると知って戦慄を覚えたに違いない。そして、こう思案することだろう。
――このままでは、己の所業が白日の下に晒されてしまう。その前に寧々子を亡き者にしなければ。
だが御殿で始末するのは難しい。毒殺しようにも毒見役がついている。
けれど好都合なことに、寧々子はひとりで祠に向かうと言いだした。ならば後をつけて祠の前で始末し、悪霊のしわざに見せかければよい――。
すると背後に人の気配を感じた。同時に寧々子は確信した。やはり竜規様の子らは殺されたのだと。
振り向いた寧々子の瞳に人の姿が映る。それは誰よりも身を粉にして奥方のために尽くしてきたはずの者――上臈御年寄の尼音であった。寧々子は尼音の正体に目星がついた。
「あなたは赤羅門の隠密だったのですね」
この荒れた森の中、足音を消して追うこと自体、並大抵の者では不可能である。紛れもなく忍びの所業であった。
「ききき、アタシが姿を見せたのはなぜだかわかるかい?」
血をねだる魔物のような顔つきで、その手には鈍く光る小刀が握られている。
「わたくしを殺すつもりなのでしょう」
「そのとおり。腹の子と一石二鳥じゃわい。先立った子らの霊も喜ぶじゃろうて」
舐めるように下腹へと視線を向ける。
「残念ですが、わたくしは子を宿しておりません。それに竜規様の子の霊などどこにもおりません」
「はぁ?」
「なぜならすべて、咎人をおびき寄せるための策略だったのですから」
「なんじゃと!?」
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