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同時に背後で土を踏みしめる音がした。尼音が振り返ると、打刀を携えた竜規の姿が目に映った。
「まさか白垣に尽くしていたおぬしが、呪いの元凶だったとはな。子の亡骸の前で顔を覆ったのは、笑いを堪えていたということか」
竜規は怒りに打ち震えていた。赤羅門の隠密が御殿に溶け込み、白垣の血を絶やそうとしていたことを許せるはずがない。ならばそれを呪いだと言挙げた僧侶もまた、尼音の回し者に違いない。
「我が子らの恨み、とくと味わうがよい!」
打刀に手をかけ身構える。だが尼音は不敵な笑みを浮かべてみせた。
「竜規殿まで現れるとは、むしろ願ったり叶ったりじゃ。――殺れ」
ひゅん、と茂みの中から何かが竜規の顔めがけて飛んできた。竜規はすぐに気づいて身を翻し、かろうじてそれを避ける。背後の木に突き刺さったのは手裏剣だった。
茂みの中から四人、忍刀を手にした黒装束の者が姿を現した。
「備えあれば憂いなしじゃな」
「余を殺めようというつもりか? 不届き者めが!」
尼音は一陣の風の如く、寧々子の背後に回り込んで刀を首元に突き付けた。
「きゃあ!」
「仲良きことはええことじゃ。ふたりとも露となれば、アタシが疑われることもないからな」
尼音は寧々子と竜規がこの場で刺し違えたように見せかける腹づもりだ。そして何食わぬ顔で御殿に戻り、ふたりの死を知った時に、呪いが降りかかったのだと嘆くのだろう。
尼音の謀略を悟ったふたりは視線を交わし、互いに瞼で静かにうなずいた。
竜規は剣を下段に構えて精神を研ぎ澄ませた。尼音は目を血走らせ、嬉々として叫ぶ。
「竜規殿よ、白垣の土となれぇぇぇ!」
四人の忍がいっせいに竜規へと飛び掛かる。だが竜規は身動きひとつせず、間合いを図りつつ力を溜める。刃先が己を引き裂く寸手のところで、ついに剣技を繰り出した。
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