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「よーし、やっと言葉をおぼえたぞ!」
母が庭で悲鳴を上げた。
7匹の猿が同時に喋ったからだ。
俺たちが中学生へと進級した春の陽の下であり、自宅の近くにある
桜の大木から花びらが舞いこんでいた。
入学祝いの家族4人の記念写真を、家の前と桜の大木の下と両方で
撮ろうと話していた矢先の出来事だった。
「長い年月をかけて妖術を身に付けたんだ。
これでオイラたちはひとつになれる」
新品の学生服の黒が負けるほど。
真っ赤な光が燃えるように立ち上がり......。
次の瞬間、そこにいたのは一匹の猿だった。
百日紅と同じ背の高さの、7つの尻尾を持つ、紅色の毛並みの猿が。
赤い目で俺たちを見下ろしていた。
「写真なら百日紅の前で撮ってくれよ、オイラ、自分の姿がみたいよ」
7人が同時に喋っているような合成的な声だった。
俺は涙目になり、藤生は好奇心も交えた目でみつめ、母は自宅へと
逃げ込んだ。
「七紅様......!七紅様 (ななべにさま) が、また来たんだ!」
父の反応だけは、何かを知っている風だった。
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