第二部 七空村

12/50
前へ
/199ページ
次へ
「よーし、やっと言葉をおぼえたぞ!」 母が庭で悲鳴を上げた。 7匹の猿が同時に喋ったからだ。 俺たちが中学生へと進級した春の陽の下であり、自宅の近くにある 桜の大木から花びらが舞いこんでいた。 入学祝いの家族4人の記念写真を、家の前と桜の大木の下と両方で 撮ろうと話していた矢先の出来事だった。 「長い年月をかけて妖術を身に付けたんだ。 これでオイラたちはひとつになれる」 新品の学生服の黒が負けるほど。 真っ赤な光が燃えるように立ち上がり......。 次の瞬間、そこにいたのは一匹の猿だった。 百日紅と同じ背の高さの、7つの尻尾を持つ、紅色の毛並みの猿が。 赤い目で俺たちを見下ろしていた。 「写真なら百日紅の前で撮ってくれよ、オイラ、自分の姿がみたいよ」 7人が同時に喋っているような合成的な声だった。 俺は涙目になり、藤生は好奇心も交えた目でみつめ、母は自宅へと 逃げ込んだ。 「七紅様......!七紅様 (ななべにさま) が、また来たんだ!」 父の反応だけは、何かを知っている風だった。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加