第二部 七空村

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「七空家は、七匹の猿たちに守れて血が途絶えないのだと。 父、要するにおまえたちの祖父から、聞かされたことがある。 そのときは昔話しにしか思えなくて......信じていなかったんだが」 コンビニで買ってきた缶ビールを飲みながら。 父が話しを切り出してきた。 普段は飲まない人だが、酒の力を借りずにはいられないのだ。   ちなみに祖父母は俺たちが生れる前に亡くなっているので。 俺も藤生も馴染みがない。 いつも母の手料理の夕飯が並ぶ食卓には、宅配のピザが置かれてある。 俺はマッシュルームの入ったピザを藤生に押し付けて、シーフードの ピザを頬張っていた。 キノコ類が嫌いな俺に、母は無理に食べさせようとはしなくて、料理も 俺のぶんには避けて出してくれるほどだった。 そんな母が、料理を作れないほどショックを受け、マッシュルームの 入ったピザを選ぶほど混乱しているのだ。 「ピザの配達の人......平気な顔してた。笑ってた。 あれが......あいつが、わめいていたのに! 良い匂いがする、その箱はなんだ?って、言ってたのに! 宅配の人は 『ありがとうございました。山に囲まれて良い家ですね』って。 長い階段を上るのは大変だったでしょうに、それでも笑ってくれて」 「たぶん、七空家の人間にしか見えないモノだ。 七空の家の呪いだから」 「呪いってなに!なんなの!私は何も知らずに呪われた家に嫁いで 子を産まされたというの!」 父の言葉に間髪入れずに母が言葉をかぶせた。 母が大声を出すのを、それこそ生まれて初めて聞いた。 長い黒髪を編み込んで気品のある服を着ていて、優しく微笑んで 幼少時の俺たちが言うことを聞かなくても、怒鳴らなかったのに。 そんな、いさかいも知らぬまま......紅い猿は、父の渡した手鏡で 自分の姿を見続けていた。 もう平気で登れる百日紅に、もたれながら。
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