第二部 七空村

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七空家は、昔は土地長者だったそうだ。 それこそ町中の山や田畑を所有するほどに。 しかし、ある代で事業に失敗して何もかも失くしてしまい。 残ったのは、墓のある小高い山ひとつだった。   先祖は山だけはどうにか売らないと決めて、妻と長男とで 貧しくも穏やかに暮らしていた。 そこへやってきたのが7匹の猿だ。 侘しい日々に文字通り花を添えようと、庭に植えた百日紅を 気に入ったらしく、そこで遊び始めたのだ。 『七空』という名の命運が、7匹もの猿たちを呼び寄せたのだと その代の家主は歓迎した。   そして想いのままに猿たちは七空家を救ってくれた。 どこからか木の実や魚、食べれる動物を家の前に置いて 文字通り、食うに困る時期に救われたりもしたのだ。 そうして無事に長男は嫁をもらい、男の子が生まれた。 次の代もまた、男児が生まれた。 それがずっと続いて、七空の血は絶えなかった。 やがていつの代からか、猿たちに感謝の意を込めて 『七紅様 (ななべにさま)』と、名付けた。 まるで神を信仰するかのように......。   「七空の家には必ず男児が生まれ、家を継げる。 これは七紅様の思し召しなのだ。 それは百日紅の木のおかげだ。 百日紅が呼び寄せてくれたのだから。 この山と百日紅だけは守らねばならない。 七紅様が楽しく遊び続けていられるように」 曾祖父は、そう告げて亡くなった。 しかし、時代が過ぎてしまい、そんなことは迷信のようにしか 思われなかった。 猿たちは確かに百日紅へと遊びにきていたが。 その頃には家が、持ち直していたせいもある。
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