第二部 七空村

17/50
前へ
/199ページ
次へ
「呪い?誰が呪ってるって言った? そりゃあ百日紅を切ったときは怒ったよ。 怒れば暴れるさ、おまえらだってそうだろ?」 長い金色の爪で頭を搔きながら、七紅が普通に質問に答えてくれた。 近寄るにも不気味さがあり、しばらく避けていたのだが......。 とにかく言葉が通じるなら話し合ってみよう。 藤生がそう提案してきたからだ。 日曜の昼下がり、まだ風は冷たい春の終わりの時期。 気晴らしにと、まだ咲いている桜を見せるためにと、中谷さんが母を 散歩に連れ出してくれた。 父は休日になると理由をつくって自宅には居ないようになったが 今日は本当に接待ゴルフだ。 青々とした緑の木々が輝くなかで、紅色の毛並みの鮮やかさを。 俺は綺麗とは思えない。 なんにせよ家族崩壊させた要因なのだから。 「七空の家はな、想いが強いんだ。 だからオイラたちは、名前の強さに引き寄せられたのさ」 「そうか、やっぱり家の名字との関係があったのか。 それから?おもい?」 俺が聞くと、七紅が地面の土へと『想』の文字を書いた。 「すごい!漢字も書けるんだね!妖怪の力なの? 猿から人へと進化しつつあるの?」 藤生が本来の目的とはかけ離れた意識で興奮している。 俺は呆れて、大丈夫かと思いながらも、藤生はやっぱり動物関係の 職に就いて欲しいと、改めて感じていた。 それこそ『想い』のほうだった。 「人間じゃない。神になるんだ。 そもそも七空家に伝わる話しにはデタラメも交じってるぞ」 「七紅様のおかげで男児が必ず生まれて跡継ぎが耐えない。 って、ところだろ?」 俺が言うと、七紅は『んっ?』という顔つきになり、藤生は 『探偵っぽい!』と、また変に興奮してきた。 「家系図が無いか調べてみたけど、無かったよ。 でも古いアルバムは出てきた。 現代では子供を多く産む家は少ないけど、昔は5~6人くらいは 普通に産まれていた。だから確率的に男児はいつも生まれてた。 それだけじゃないかなって。違うか?」 「ご名答~っ!すごいすごい!」 おどけたように七紅が大きな手を叩いた。 俺には不快なだけだった。 「おまえたち兄弟は、どっちも捨てがたいなあ。 ひとりは静かに考えて、ひとりは好奇心で動く。 でもなあ、どっちかひとりだ、オイラのなかに取り込むのは」 「え?」 「なんだって?」 双子らしくというより何事かと俺たちは同時に聞き返した。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加