第一部 闇から雨のち晴れ

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「あんたってほんとマヌケだよね、馬鹿な意味でのお人よしだよね」 数歩で足を止め、おもわず振り返った。   「あと、顔はいいけど中身は残念ってよく言われてるよね」 え......? 「それから服選びのセンスが無さ過ぎ、そのコートの色おかしすぎ」 女が次々と直球を投げて俺をけなし始めた。 俺は口を開けてしまったが、魚のようにパクパクさせるだけにとどめた。 怒って声を出すわけにはいかない......そう判断したからだ。 なにしろ『入ればわかるよ』と、男が言った通りに女は出てきた。 『トンネルの中で話しかけられても、絶対に声を出してはいかんよ』 それから『声を出せば、喉から魂を吸い取って殺してしまうのだよ』 というのも、信じるべきだと思ったからだ。 「探偵なんて名ばかりで、ただの便利屋」 そんなことはわかってる。 「ほんとうだったらもっと安定した職を続けられたのに」 それもわかってる。 「あのとき、性悪オンナに惚れたせいで2ヶ月で離婚」 なにもかもわかってるよ! まさか精神攻撃がくるとは予想外だった。 妖怪だかなんだか知らんが、けっこう近代的じゃないか。 「毎朝、毎朝、目が覚めると気が滅入ってる、そんな空しい日々」 それは単に低血圧で、朝に起きるのが苦手なだけだ。 だから時間帯に関係なく自由に起きれる探偵業は体質に合っている。 と、言い返すわけにはいかなかった。 「年中、寝るときは何も着なくてパンツだけってエロいし、だらしない」 おまえそれはセクハラだろ!
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