第二部 七空村

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そしてその後も、父も、俺も、藤生も、七紅をどうにかする方法は 見つけられなかった。 涙なんてもう出ないと思うほど泣いて。 もう何もかもどうでもよくなっていた。   そんな真夏のあるとき、自宅にいたら藤生から電話がかかってきた。 「父さんが運転できそうにないから。 タクシーを呼んでこっちまで来て欲しい」 そう言われた。藤生がこのところ身体の調子が悪いからと。 父が病院へと連れて行って、検査結果が出た日だった。 駐車場で膝まづいて父は泣いていた。 泣きながら叫んでいた。 「もういやだ!!もういやだ、殺してくれ、殺すならオレにしろ! 殺してくれ!殺せよ!殺してくれ、殺すならオレにしてくれ殺せ! もうたくさんだ! どうしてだ!殺せ!ひとおもいに殺せ!殺せ! どうしてなんだ!どうして!どうして!いますぐ殺してみせろよ! もういやだああああああああああああああ!!ああああああっ!!」 父の嘆きに追い打ちをかけるかのように。 激しい通り雨が降り始めた。 「兄さん、七紅に取り込まれる役目は僕がやるよ」 なにがあったんだ?という俺の問いには答えず。 とても静かな声で藤生が言った。 「兄さん、僕ね、小児ガンだって。そう診断されたよ」 俺は膝から崩れ落ちた。 俺が来たぶんの料金は払っていたので。 タクシー運転手が面倒ごとだと判断して走り去って行った。 誰かに知らされたらしく。 病院の職員の女性が傘を差して駆け寄ってきた。  「俺か?俺のせいなのか?俺の呪いなのか? 俺が、藤生をうらやましがったから。自分ばかりが不幸だと。 藤生を憎んだから。こんなことに......藤生が......藤生が!!」 「違うよ、兄さん、それは絶対に違う」 親子で、男3人で、俺たちは雨粒よりも多くの涙を流し続けた。
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