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「兄さん、みて、可愛いでしょ!」
藤生が、真っ白なネコを抱いて駆け寄ってきた。
仔猫ほどではないが、まだ生まれて間もない子供くらいにみえる。
俺は食事をほとんど取らず、自宅のベッドに寝ていた。
それは父も同じで、父はストレスで胃を壊して内科へと入院した。
中谷さんには、藤生のことで悲しませたくなくて......。
会社が倒産しかけていて大変なのだと嘘をついて、家政婦の仕事は
辞めてもらった。
母は、普通の会話ができるほどには落ち着いていたが、退院させるには
不安のある状態だった。
とてもじゃないけど藤生のことは話せなかった。
もう、動けるものはほとんどいない......これからどうする?
そんな絶望のなかで寝ている俺の顔へと。
藤生が猫の顔を近づけてきた。
「綺麗だ......」
まるで職人が丹精込めて磨き上げた宝石のように。
青と緑の目をした猫だった。
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