第二部 七空村

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「両目の色が違うのってね、オッドアイっていうんだよ。 だから名前は『アオメ』にした。 だって、緑も青っていうでしょ? あ、カタカナでアオメだよ」 俺は上半身を起こしたらめまいがして、藤生が支えてくれた。 猫が心配そうな顔で、首を長くして俺を見上げている。 「いや、こいつ、どこから連れてきたの? 捨て猫じゃないだろ、毛並みが綺麗だし、人間に警戒心がないし、 健康そうだから、産まれてすぐに世話されてるだろ」 「さすが兄さん!相変わらず観察眼が鋭い名探偵! クラスメイトの家で5匹、生まれたんだよ。 その一匹を、もらってきたんだ」 「もらってきたって、育てられるのかよ?」 「大丈夫、猫の飼い方はおぼえたから」 「いや、そうじゃなくて.......」 おまえは、いつ体調が急変するかわからなくて、そして......。 「兄さんが育てるんだよ。ちゃんと教えてあげるよ」 「ええええええええっ!」 このときばかりは、何も、誰も、邪魔しなかった。 俺たちは昔のような仲良しの兄弟に戻り、アオメを俺ひとりで 育てられるほどになれた。 いまにして思えば......。 あれは藤生の俺への励ましだったのかもしれない。 生き物を飼うには。 人間は、だらしなく生きるわけにはいかない。 どうしたって責任が伴い、規則的に生活する必要性がでてくる。 実際、俺は食事を取り、アオメの世話を始めてから活気が出た。   藤生は、俺がどうにか生きるために。 アオメを連れてきてくれたのだ。
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