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「兄さんが寝てばかりだったあいだに、
七紅とたくさん話したんだよ。
取り込むといっても殺すわけじゃなくて、
意識はあるって知れて、ホッとしたよ」
「おまえ、それで......そんなに明るくいられるのか?」
「うん、でも、やっぱり僕だって恐かったから......。
どうしても兄さんの代わりになるって、それだけは言えなかった。
ごめんね。でもね、いまはこれで良いんだと思えてる。
ガンが進行して苦しんで死ぬより、七紅のなかで生きられるから」
「良くないよ、何も、良くないよ......」
ずっと藤生だけ自由なことを妬んでいたのに。
いまは、藤生の決心が悲しい。
そんな俺を慰めるかのように。
アオメが藤生の腕から抜け出して、俺の膝へときた。
とても、とても、温かい、小さなぬくもりと、想い。
「猫がこんなになつくのは珍しいんだよ。
特に兄さんのほうが好きみたいだ。
兄さんからの愛でアオメも、妖怪とか、
能力をもてるかもしれないよ」
「嫌だよ、アオメはアオメのままがいいよ」
俺はアオメを抱きしめた。
七紅の下品ないびきとは違って、アオメの鳴く声は愛しく聞こえた。
短い秋が過ぎ、冬の兆しが見え始めた頃。
両親が、ほぼ同時期に退院した。
やっと家族4人が揃ったが、その喜びは束の間だった。
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