第二部 七空村

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「みんなで死のう。それで何もかも終わりにできる」 父が古風な飾り刀を両手に持って言ってきた。 誰もが声さえ出せずに、飛びあがるように椅子から立ち上がった。  クリスマスイヴで、食卓には定番的な料理とケーキが並んでいる。 ようやく料理ができるほど回復した母の手料理だった。   父は母からの離婚に承諾した。 『せめてクリスマスだけは家族全員で過ごそう』と、言ったので 母は希望が持てていたのだ。 藤生がもう長くないことを知らないままに......。 「離婚しても無駄だよ。眞麗にも藤生にも七空の血が流れている。 汚れた血は絶やすべきだ。 そもそも家系に従うつもりでいたのが間違っていた。 言いなりになる必要は無いんだ。 藤生がね、神様に取り込まれると言ってるんだけど、 それで七紅が力を増したら危険なだけだ。 そして眞麗が生き残って結婚して子供をつくれば......また七空の 血が続いてしまう。それもダメだ! それなのに君は、どうしたって子供を手放せない、説得しきれない。 言うことを聞かない。もう、うるさいんだよ! あきらめきれないなら、もう死ねばいいんじゃないかなあっ!!」 父が刀をテーブルへと振り下ろし、切れた料理が飛び散った。 刀の刃は本物だった。 「なあ、素晴らしい刀だろ、居間に飾ってカッコつけてたけど、 ちゃんと切れるんだ。 土地も会社も車も売ったけどね、これだけは手放せなかった。 それもまた、運命ってやつかねえ?この日の為の。 家族全員で、家族のままで死ぬ為の!」 「やっと元気になった途端にそれかよ!ふざけんな!」    俺が大皿を料理ごと壁に投げつけ、父がひるんだ。 しかし藤生が刀で切りつけられてしまい、母が叫んだ。 「藤生、藤生!」 「みんなで、外に出よう、考えがある」 震えて身体がうまく動かない母を2人で支えながら。 俺たちは庭へ逃げた。
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