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そこには......。
父と母が、ダブルベッドで花柄の布団の中で寄り添って眠っていた。
とても、安らかな美しい顔で。
クリスマスのあのときの服装のままで。
父は茶色のタートルネックのセーターで。
母はグリーンのワンピースで。
「これ、死んでるのか?」
俺は生死を確認する勇気がなくて......寝室にさえも入れなかった。
「眠っているだけだ。そして、この室内だけ時間が止まっている。
そういう空間を作り上げた。おまえの親はこのまま眠り続ける。
年も取らずにな」
俺は身体の力が抜けて、障子を背にしてゆっくりと床に座り込んだ。
和風作りの家だけど中身は洋風で床はフローリングで、客間だけが
畳になっている。
「おいおい、障子は壊すなよ。
この入り口のおかげで2人は眠っていられるんだ」
「そんなの、死んでるのと同じじゃないか。
ただの人形じゃないか......!」
「藤生の願いを叶えるには、これしか思いつかなかった。
何がいけない?目を覚ませば悲しむぞ、苦しむぞ?
それくらいはオイラにもわかる。
なにしろ藤生は、どのみち死ぬ運命だった。
母親にはそれが最も酷だろ?しかも親父と別れたがっていた。
嫌になっていた、憎んでいた。親父は親父で、嫌になっていた。
起きればまた暴れるぞ。眠っていれば静かな夫婦だ」
それはそうか......と、ぼんやりと俺は思った。
「それと、あとひとつ」
七紅が我に返る言葉を放ってきた。
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