第二部 七空村

37/50
前へ
/199ページ
次へ
そして高校からは東京の高校へと進学して独り暮らしを始めて 大学も就職も、そのまま東京にしてみた。 12年間、過ごしてきた幸せな我が家は、たったの一年間のあいだで 悲劇に覆われている......。 もう実家に居ることは苦痛を伴っていた。 だから、村でも町でもない大都会......東京へと逃げたのだ。 そうして淡々と人間として生き続けて。 それはそれでいいような気もしていた。 経緯はどうであれ、両親を生かしておいてくれた。 両親の生命力を守るかぎりは、実家は朽ちない。 百日紅も有り続ける。 藤生は藤生で、どんなカタチであれ......病死を免れた。 そして時折り、七紅の身体から抜けて。 幽体となって会いにきてくれた。 だからこそ孤独な日々も平気でいられたのだ。 それに.....アオメも永遠に生きていてくれる。 白いパジャマを着た姿で現れる藤生の身長を、俺はいつしか 追い越していた。 とはいえ167センチは、男としては低いほうだが。 「僕はね、兄さんのほうに嫉妬してたよ。頭のキレがよくて、 すぐなんでも気づけてカッコイイって。 それに僕は可愛い顔って言われるから、兄さんの顔立ちに憧れてた」 ほんの少しの贅沢で暮らす質の良いマンションのベランダで 柵の上を歩きながら藤生が言ってきた。 「お互い、ないものねだりだったんだな。 俺は藤生の背の高さまで、うらやましかった」 「あはははははっ」 「なんだよ急に」 「ほら、僕が着てるこの白いパジャマ、母さんがお揃いでって 買ってくれたよね。そしたら、僕にはピッタリで、 兄さんは少しブカブカで、逆ギレしちゃって。 それからパンツ一枚で寝るようになったの、頑固すぎだよ」 「俺にだって意地ってもんがあるんだよ!」 「もう子供じゃないのに、いまだにパンツだけで寝てるじゃん」 「もう慣れたんだからしょうがないだろ」 「それを受け入れてくれる、恋人を見つけるの大変だよね」 「......結婚なんかしないよ。七空の血は俺で終わらせる」 そんなことを言った。 半ば絶望的な意味としても。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加