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俺は無意識にベランダへと出た。
カーテンを高く吹き飛ばすほどの風が吹いている。
このまま風に乗って飛んだら、きっと俺も飛べる。
どこかに行ける。
いや、どこかじゃない、もうどこにも行きたくない、生きたくない。
しかし、それができなかった。
アオメが......ベランダの柵の上に立ち、両手を広げていた。
『飛び降りなんてさせない!』
そういう意識と、そういう目をして、そして泣いていた。
強く吹く風に耐えて髪を揺らしながらも小さな身体を踏ん張って。
俺はベランダにしゃがみこんだ。
わりと冷静に近所から苦情がきそうだと思いながら。
それでも泣き続けた。
「もういいよ、もうなにもかも、どうでもいいんだよ!
好きにさせろよ!いつもいつもいつもいつも、俺は選ばれる!
長男だから後を継げとか、妖怪に取り込まれろとか、
金持ちの旦那になれとか!そしていつも見捨てられる!
そんなの、もう嫌だ......もういやなんだよおおおおおお!!」
それでもアオメは立ち続けた。
アオメの、青と緑の涙の雫が、風に舞っていた。
「綺麗だ......」
小児癌だと告げられてからの藤生が、連れてきたときのまま。
姿が変わってもアオメは美しい。
それでも。
俺の死んでしまいたい願望は消えなかった。
七空から奪った三千万円で細々とした生活をしながら
死ぬ方法を考え続けた。
そうして自殺方法を詳細に書く王生さんのブログをみつけた。
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