第二部 七空村

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王生菜由子の心霊体験は半信半疑でもあった。 『落合さんは霊感とかある?あたしは無いから、よくわかんない』 『俺は、まあ、微妙?』 自身の家系による残酷な事態......。 しかも心霊ではなく、神や妖怪という不可思議な存在からの悲劇。 クリタに心を開いていても、それだけは話せなかった。 ともあれ王生のブログは、出かける内容ではなく、自宅での話題へと 移り変わった。 タイトルも「王生、行きません」と、なった。 それはそれで人気は保てていた。 俺は「行ってきます」が「逝ってきます」で。 「行きません」が「生きません」そういう気がしていた。 そして彼女は、室内での自殺方法、外で死後に発見されたときに 自身を証明させるもの、事前の身辺整理。 それらが書き込まれ続けた。 それを上手い具合に直接的な文面ではなく、あくまでもネタとして 書き込んでいた。 「最近、知ったことなんですけど」という感じで。 彼女が自身を隠してファンと交流していくなかで。 彼女の自殺願望の本気を俺はみていた。 だから俺は自身のブログも作った。 タイトルは「落合が通過する」と、適当に名付けた。 王生の書く自殺方法、部屋を事故物件にしていけない。 遺体が酷い状態でも確認できる歯の治療痕、持ち物。 それらを参考にして、俺は歯医者に通院して虫歯を治した。 そして身辺整理も始めて、ブログに持ち物の画像を出した。 遺体が発見されたときに俺だとわかるようにと。 風呂場に変なパイプを付ける工事があって、それも出した。 『個人情報を出し過ぎてメチャクチャだわ。住まい特定されるぞ』 というコメントがきた。 その為にやっているのだから問題は無い。 そうして俺が死へと向かおうとしているときに。 王生菜由子のブログがアカウントごと削除された。
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