第二部 七空村

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『王生さん、死んじゃったのかな?』 クリタから通話のほうへと連絡がきた。 『わからない。顔まで出してたから、ストーカーに悩んで それで消したというのも考えられる』 『相変わらず観察眼が鋭いね。落合さんは社会で生きれるよ』 『観察眼が鋭いとか、履歴書に書いても採用されねえよ』 『王生さん、死んでないといいな』 『そうだな』 『でも、みんな自由だね』 『なにが?』 『だって、生きようとしたら生きれるじゃん、落合さんは......。 あたしは病気だから、どうにもならない』 俺は言葉がみつからず黙った。 俺がどれだけ大人だとか、クリタがどれだけ若いとか。 そういう問題でもなかった。 『ごめんなさい。言い過ぎた』 クリタから言葉を出してきた。 『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』 『落ち着けよ、クリタ、俺、怒ってないよ。 それに俺だってクリタが、うらやましいよ。 優しい恋人がいるなんて、うらやましい』 『彼には、きっと見捨てられる。あたしなんて』 『クリタ、今日はもう休んだほうがいい。 それこそ病人なんだからさ』 『ありがとう、ごめんなさい、ありがとう、ごめんなさい』 『ごめんって、言わなくていいからさ』 『落合さん、そこに居てね』 『は?』 『目が覚めて落合さんがいなかったら......寂しい、悲しい』
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