第二部 七空村

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『落合さん、あたし、望み通りに死ねそうだよ』 クリタからサイト上でメッセージがきた。 『もうすぐ大きな手術をするんだけど、確率は五分五分だって』 「そんな......」 俺はPC画面でなく部屋で声に出した。 『クリタ、あきらめるな!生きろ!』 俺は現実的に届かない気持ちを、PC画面のなかに書き込んだ。 『えー?なにー?ホンモノの女子高生に萌え始めたの?』 いままでの付き合いからして、その発言が嘘だと見抜いた。 『ホントは怖いんだろ?人間ってのは、そういうもんだ。 いざ死ぬとなると、次の一歩を踏み込めないときがある。 俺は、そのせいで何回も死にかけて、そして生きてる。 電車に直接に飛び込めばいいのに、踏切の線路内で立ち止まって 周囲に止められたときもあった。 なあ、クリタ、手術をうけるってことは......。 おまえは五分五分に駆けたいんだ。でなきゃ手術も断れる筈だ』 『あー、もー!名探偵の落合さんには適わないよ。 よかったよ書き込み蘭で......。 あたしいまグシャグシャに泣いてる。 女子高生っていう無敵の武器も消し飛ぶくらい、変な顔になってる』 『変な顔でもいいから、死ぬな、ようやくそれがわかった。 俺たちは、ホントは生きたいんだって』 『そう言われても......あたしの場合は身体だから反撃できない。 落合さん、あなたは生きて。生きられるよ。 そして約束通りにブログに書き込んで。 クリタは亡くなりましたって、親戚にはダメだったときは この人に連絡してほしいって伝えてあるから。 それと数人くらいのネット仲間も、泣いてくれるかもしれない。 それから、恋人......どうかな?もうフラれてるかも。 以前に見舞いにきたときに、怒鳴って追い返しちゃった』 『泣かすな!笑わせろ!恋人のためにも生きろ!』 『その恋人を、失うのが怖いの!死ぬほど怖いのよ!』 俺も、恐くなった。 本当に本当に、また大切な相手を失うことに。 そして失いたくないから。 自分も生きようとしていることに。 死ぬほど苦しいから死ぬほど生きたいのだと。
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