第三部 最終決戦

1/52
前へ
/199ページ
次へ

第三部 最終決戦

「落合三郎(さぶろう)って、本名じゃなかったんですね」 車を運転しながら陽輝章真さんが言ってきた。 すっかり冬になり山々の木立ちが美しい。 そういえば初めて村に来たのも冬だったと思い出す。 「書いてるところを覗き込むからあせりましたよ。 まあ、隠すことでもないけど」 俺が陽輝村へと移住したので、町の役場で転居届を申請してきたのだ。 そして章真さんの運転する車で村に帰ろうとしている。 「実家と絶縁といっても、正式な方法があるわけじゃないですからね。 本籍も名前も、そのままです。 でも、自分の名前が嫌で嫌で、人から呼ばれたくなくて、 それでネット上で名乗るのときに、思いついたのが『落合』 だったんです。 『三郎』は、落合探偵事務所を始めたときに付けました。 名刺をつくったほうがいいかな?と」 「なるほど。僕らには最初から落合さんだから、馴染み深いです。 っていうか、なんで落合なんですか?」 「東西線」 「とうざいせん?東京都内にある、路線の?」 「そうです。その東西線。中野(なかの)と、 高田馬場 (たかだのばば) の、真ん中にある落合駅。 そこから取ったんですよ」 「住んでたんですか?」 「いえ、通勤で路線を使っていただけです。 ただ、なんかいいなあって、思って......。 中野は若者や飲み屋で賑わう場所。 高田馬場は早稲田の学生と飲食店で華やいだ場所。 どちらも路線が多くて、利便性でも有名なところでしょ? でも落合は、そこに挟まれて、ひっそりとしている。 そういう場所がいいなあって、自分に付けたんです」 「深いですねぇ」 「住んでる人たちには、なんだか申し訳ないですけどね」 「そんなことないです、合ってますよ。だって落合さんって、 ほんとに『人と落ち合う』って、感じですから」 「その発想のほうが深いっすよ! これからはそっちの意味ってことにします」 「あはははっ!それがいいですね」 そうして陽輝村へと着いて、俺は新居まで章真さんに送ってもらった。 和風の木造の一軒家で、小さいけど2階建てでベランダと庭まである。 「落合さん、章ちゃんを連れ回してないで、自分で運転しなさいよ! この可愛い相棒はなんのために買ったの?」 ちゃんとした屋根付きガレージに停めてある車を指差して クリタが言ってきた。 まだ引っ越して間もなくで、段ボールだらけの部屋で、食事を作って 待っていてくれたのだ。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加