第一部 闇から雨のち晴れ

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『落合さん、村の長の長男に生まれて、 それが嫌で、実家とは絶縁したって、ネットで書いてたよね。 私、ネットで言ってなかったことがあるの。 言うと住まいを特定されてしまうから言えなかった』 俺とクリタは、ネット上のサイトを通して知り合った。 互いに、自殺願望があったからだ。 クリタは難病の辛さであり、俺はあらゆることから逃げようとした。 そしてネットで会話していた俺たちが、探偵事務所のソファーで 様々な縁が巡って、向かい合った状態で、話すことができた。 「私の実家も小さな村なの。そこね、心霊スポットがあって オカルトマニアには有名でね。 心霊番組に使用されたり、ホラー映画の撮影があったり。 でも怪異なんて無くて、ただの都市伝説が広まっただけなの。 黒飛村 (くろとび むら) なんて、いかにもな名前だったし。 でも、でも、それで......」   クリタのためにホットミルクを角砂糖も用意して出した。 しかし彼女は飲まないままでカップの中の空白をみつめていた。 「両親が交通事故で亡くなったのが高校1年のときで、 それで学校内でウワサされたの。 私は高校進学と同時に村から出て横浜に住んでるから、 それで生きてるんだって。両親は村で死んだから、呪いだって。 私は村を出たから生き残れたんだって。勝手な憶測になった。 そのあと、病気を発症したら、別のウワサ話しに変わって 『村の呪いから逃げられなかったんだ』って、言われて......」 「そこまでだったのか......」 俺のほうが泣きそうな声になっていた。 ネット上では伝わりきれないものが、確かにそこにはあった。 病気だけでなく、両親を失った悲しみに更なる悲しみが重なっていた。 「わけわかんない。両親が死んで、自分も病気で、 それで更に傷つけられるって! そんなときに心の支えになってくれたのが、章真くん、 章ちゃんだったの。好きになって当然だよ。 だからこそ、病気のせいで彼に迷惑かけたくなくて、死にたくなった。 でも、いまは生きたい。章ちゃんと生きていきたい。 でも、その勇気が......出ない。 助けて、お願い、落合さん、力を貸してください!」 「わかった。村に行ってくる。 そして必ず、良い報せを持って帰るよ」 できるかもわからない約束だったが、どうにか果たしたくて言い切った。 結婚すると、ただ好きというだけでは済まされないことが出てくる。 しかも生まれ育った村のせいで傷ついたのに、また別の村へ住むのは 不安で当然だ。 俺は、どうにかして村に辿り着かなければならない。 クリタの為に。
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