第三部 最終決戦

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そりゃまあそうか、俺は土鍋?なんて使わないから、陽輝家から 持ってきたわけか。   ともあれガスや水道や電気は通ってるけど、すぐ動き回るような そんな気力は無かったので、ありがたい。 今日だって章真さんに強引に役場まで連れて行かれたわけで。 自分からでは無理だった。 大久保の探偵事務所を引き払い、スムーズに陽輝村へと住めたのは 空き家がいくつもあり、誰でもすぐ住めるようにと管理されていた おかげだった。 その中で小さな2階建てがいいと言ったら。 この家を与えてもらったのだ。 「え?落合さんって、えのきが嫌いなの?それは初めて知った!」 鶏肉と野菜と豆腐、そして、えのきたけの鍋。それから茶碗蒸しの 並ぶ食卓において、俺はクリタが盛ってくれた小皿から、えのきを ヒョイヒョイと箸でつまんで、隣に座る章真さんの小皿へと移した。 「うん、キノコ類全般が苦手。ごめんな、でも鍋はうまいよ。 いいなあ、章真さんは料理上手の嫁で」 「いや、えのきが嫌いってのはわかりましたけど、 なんで躊躇なく僕へと入れてくるの?」 「そりゃそうでしょ。クリタが、章真さんが嫌いなものなんて 鍋に入れる筈がないから。あっ!ダメだなあ......。 つい、推理っぽいことをやっちまう。もう探偵じゃないのに」 陽輝家がわざわざ用意してくれた4人掛けのテーブルと椅子で 俺と章真さんが並び、向かいにクリタと恵麻さん。 恵氏は左端に座っている。 さっきまで賑やかだったのに、俺の言葉ひとつで全員が黙った。 だけど気まずい雰囲気というより温かい空気で、一気に食う俺を みんなして見つめている。 それが、伝わってくる......。 「落合さん、おかわり、よそってあげますよ。小皿をかしてください」 ここで沈黙を溶いてくれたのは章真さんだった。 「え、自分で取りますよ。えのき以外は好きだから」 「まあまあ、いいから」 そうして章真さんが俺の小皿に鶏肉と豆腐と野菜を盛り、自分の小皿に えのきを多めに取り始めた。   「落合さん、さっきの推理ね、大ハズレです」 「え?」 「僕ね、食べ物の好き嫌いは無いんですよ」 「えーっ!」 俺以外が声を出して笑って、本当にそうなんだと教えてくれた。 「それで、そんなにでかくなれたのか。 あーあ、俺も、えのき嫌いを克服しようかなあ」 その言葉で更に笑い声が響いた。
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