第一部 闇から雨のち晴れ

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「なんだよ、なんなんだよ......ののしられて耐える根性がないと 入れない村って、なんなんだよ? そんな試し方あってたまるかよ!」 「別にそこは試してはおらんよ」 暗いトンネルの中で艶やかな毛並みを輝かせて神様とやらは言った。 「あの女はな、口が悪いのだ。どうしても人間を罵ってしまうのだ。 それはいけないことだが、人の内面を読み取る能力を取得してからは 罵り具合いが更に酷くなり、ついには口から魂を吸い取れる力まで 身に付けた。 普段なら良い面もあるのだが、いわゆる短所というものだな。 しかし、さすがに命を奪うのは止めてはいるのだよ。 今回にしてもな.......」 風格のある凛とした狐が、表情ひとつ変えずに言ってきた。 「あのなぁ、オッサン......いや、狐か、いや、神様か......ややこしいな! 人間様としてひとつ教えてやるよ、魂を取る以外でも人は死ぬんだよ」 「は?」  神様が、ほんの少し首をかしげた。 「は?じゃねえんだよっ!!誹謗や中傷を受けると人は心が死ぬんだよ! 何度も何度も死ぬんだよ!あぁっ、こんなこと言ってもわかんねえかっ! とにかく!あの女には悪口は言うなと命令しろ!神様権限で!」 「悪口は、いけないと?」 「そうだよ!いけないことなんだよ!あんたもそれくらいわかれ! 守り神が世の中のモラルも知らないとか......呆れ果てるわ! 昔のことは知らんが、時代に沿って現代社会ってものを学べよ! そして上に立つ者の責任を果たせ!あの女の悪いところを直せ! それから長所があるなら褒めて伸ばしてやれよ!これからは......!! ぐっ......はっ......!はあぁっ......!うぅっ......」 えらく長いこと言い返せなかった反動もあり、俺は喉を詰まらせて 激しく咳き込んだ。 「そうか、そうすればいいのか。これからはそうしよう」 そう言い放つと同時に、男が俺を突き飛ばしてきた。 「うわぁっ!とっ......!」 ふらつきつつも、どうにか転倒はしなかったその瞬間......。 俺はトンネルの外に出ていた。 そして、ずいぶん前に降りたバス停に居た。
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