第一部 闇から雨のち晴れ

18/40
前へ
/199ページ
次へ
俺は自分の格好に混乱した。 トンネルの中で、あれだけのたうちまわって泥だらけになったのに 服も髪も手も靴も、すべてが元通りになっていたのだ。 しかも腕時計をみると午後2時を少し過ぎたあたりで、時間さえも 巻き戻っていた。 なんだこれは、夢でもみたというのか? いや、違う、あれはじっさいに起きた出来事だ。 身体の疲労そのものは重苦しく残っているし、歩き疲れて足が痛い。 それに......女に暴言を吐かれまくったせいで。 俺はいま、かなり傷ついている。 放心しているところへ車の走行音が次第に近づいて、白い 乗用車が車道から外れたあたりに止まり、運転席から男性が 出てきた。 「落合(おちあい)さんですよね?探偵の。 初めまして、陽輝章真 ( ようき しょうま )です」 自己紹介して会釈してきた青年は、クリタから写真を見せられて 把握している顔と一致した。 クリタが普通の身長なのに並ぶと小さくみえてしまう程の長身で 手足が細長く、笑顔がさわやかなイケメン青年だ。 「ど、どうも、落合です」 とりあえず、服が元に戻っていてよかったと客観的に思っていた。 「こんなカタチではありますが、お会いできて光栄です」 「あ、はい。俺も、俺も......どうにかして会いたかったです」 それは、ほんとうにほんとうのことだった。 「さて、ここから村まで徒歩は無理な距離ですから迎えにきました。 乗ってください」   疲れ果てているという意味でも助かった気がした。 俺は礼を言って、車の助手席に乗り込んだ。 村へと続く道は、一車線の道路を車で直進していくうちに道筋が 複雑になっていったが、俺の通ったトンネルはどこにもなかった。 単に俺が道を間違えただけなんだろうか?
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加