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俺は自分の格好に混乱した。
トンネルの中で、あれだけのたうちまわって泥だらけになったのに
服も髪も手も靴も、すべてが元通りになっていたのだ。
しかも腕時計をみると午後2時を少し過ぎたあたりで、時間さえも
巻き戻っていた。
なんだこれは、夢でもみたというのか?
いや、違う、あれはじっさいに起きた出来事だ。
身体の疲労そのものは重苦しく残っているし、歩き疲れて足が痛い。
それに......女に暴言を吐かれまくったせいで。
俺はいま、かなり傷ついている。
放心しているところへ車の走行音が次第に近づいて、白い
乗用車が車道から外れたあたりに止まり、運転席から男性が
出てきた。
「落合(おちあい)さんですよね?探偵の。
初めまして、陽輝章真 ( ようき しょうま )です」
自己紹介して会釈してきた青年は、クリタから写真を見せられて
把握している顔と一致した。
クリタが普通の身長なのに並ぶと小さくみえてしまう程の長身で
手足が細長く、笑顔がさわやかなイケメン青年だ。
「ど、どうも、落合です」
とりあえず、服が元に戻っていてよかったと客観的に思っていた。
「こんなカタチではありますが、お会いできて光栄です」
「あ、はい。俺も、俺も......どうにかして会いたかったです」
それは、ほんとうにほんとうのことだった。
「さて、ここから村まで徒歩は無理な距離ですから迎えにきました。
乗ってください」
疲れ果てているという意味でも助かった気がした。
俺は礼を言って、車の助手席に乗り込んだ。
村へと続く道は、一車線の道路を車で直進していくうちに道筋が
複雑になっていったが、俺の通ったトンネルはどこにもなかった。
単に俺が道を間違えただけなんだろうか?
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