第一部 闇から雨のち晴れ

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「探偵に依頼したなんて聞いたときは驚きましたけど、 そこまで彼女が思い詰めたことに......いまは反省してるんです。 僕も急に実家に戻ることになって、あせりすぎていたというか。 それに、茜が奇跡的に回復して通常の生活に戻っていくことが すごく嬉しくて。 横浜より、田舎で暮らすほうが身体にも良いと思い込んでしまって」 章真さんは温厚に話してくる人物だった。 俺は好感が持てて、この人にも幸せになってほしいと心から願えた。 「あの、この村には何かしらの伝承とか、そういうのは無いですよね? 確か8年かけて人が住めるように開拓したのち、居住者を関東内から 募集したんですよね。 だとしたら、よくあるタイプのオカルト系は無さそうな気がして」 唐突に俺は、たずねてみた。 「うーん、無いけど無いわけでもないかなあ」 「え?うおぉっ、とととっおぅっ!」 山道のとてつもない急カーブを曲がり、俺は助手席で態勢を崩して 慌てて座り直した。 とはいえ、章真さんは慣れたハンドルさばきで、いくつものカーブを 容易く切り抜けて走行していく。 「それにしても、さすが探偵さんだ!ちゃんと調査してるんですね。 ということは、僕が養子であることも知ってる感じですか?」 「あ、はい。クリタが言ったわけではなく、俺のほうで調べました。 元の名字は『亜相 (あそう)』ですよね。災害でご両親が亡くなり 天涯孤独になったところを、この村の地主である 『陽輝恵 (ようき めぐみ)』に引き取られた。 その後、あなたは横浜の高校に進学してクリタと出会った。 いずれは跡継ぎとして実家に戻ることは約束していた。 すみません......個人情報なのに」 「いえいえ、むしろ正確で素晴らしいです。 茜が信頼する相手ですから、僕も安心してますよ。大丈夫です。 茜とは、境遇が似ていたから惹かれ合ったのもあると思います」 「なるほど」
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