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車を30分ほど走らせた先に出現した集落は、古びた村の陰湿さとは無縁で
明るい雰囲気の、村というよりは町だった。
なんのことはない、孤立しているので流通がある程度は不便なだけだ。
それ以外では、住むには問題のない快適な感じだ。
章真さんと歩き回っていても、田舎特有の閉鎖的な空気はなく、遭遇する
村人たちは笑顔で挨拶をしてくれた。
子供たちも礼儀正しく、俺のほうが恐縮してしまうほどだった。
更に充実しているのは、小学校と中学校が村の中にあるところだ。
小さな建物とはいえ教師もじゅうぶんな人数を揃えているし、図書館や
診療所もちゃんとある。
そして高校生になると村から出てよそへと進学し、社会人になってから
村に戻って職人になったり農業に就いたり、実家を継いだりする場合も
あるし、そのまま村に戻らない場合もあるらしい。
「あら章ちゃん、イケメンさん連れてきたのね、キュンキュンしちゃう」
「章ちゃん、焼き芋つくったんだけどいるかい?」
「おいおい、客人が来たならもっと豪勢なものがいいんじゃないか?」
「神社の供え物は抜群に上手いぞ、手作り大福にしようや」
「東京から来たならそんなのより田舎でしか食えないものがいいだろ」
「そうか焼き芋はつまんないか」
「いやいや冬に食うといえば焼き芋が優勝だろ」
「なに言ってんだよ鍋だよ」
「違うよ、コタツでアイスクリーム食べるのが最高!」
「それ個人的すぎるから」
ここはマジで村なのか?というノリの弾む会話に押されながら
すぐ帰りますからと丁重に断った。
あの怪異のおどろおどろしさは、なんだったというのだ?
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