第一部 闇から雨のち晴れ

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俺は章真さんの実家に案内され、義理の父親の陽輝恵(ようき めぐみ)と 対面した。 地主の家なら屋敷みたいにでかいと想像していたが、わりと普通というか 普通よりちょっと広いくらいだった。 「そうですか、章真の嫁になる相手を悩ませてしまったのですね......。 これは私のせいです、申し訳ない。 なにしろ章真は良い子に育ってくれた。 いつでも私の跡を継げると安心しまして、それで恋人がいるなら 早々に結婚しなさいと、私が急かしてしまったのです」 和風な家の客間で、正座した義理の父親がそう告げて頭を深く下げてきた。   「あ、あー、いえいえいえ、そ、それに、関し、て、は、 俺がっ、どうこう言えません、からっ、はははっ」 じっさいにそうなので俺はそう言うしかなかった。 「落合さん、もしかして緊張してます? 父は立場的にはともかく、普通の中年独身男です。 気楽にしていいんですよ」 不自然に言葉が途切れたせいで、章真さんに笑われてしまった。 「そ、そうですね、もっとこう貫禄あるヒゲが長い人かと思ってました」  恵氏は、無精ヒゲのある渋い顔をゆるめて微笑してきた。 ともあれ俺がすべきことは、彼女の意思を伝えること。 彼の意思を確認すること。 それから、村がどんなものであるかを第三者の視点で見ておくことだ。 諸々を終えて数時間後の夕方。 今度は父親の運転する乗用車で、バス停まで送ってもらうことになった。
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